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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

「おたよにはまったく済まない、どうか勘弁して下さい」

腰掛に掛けて食事の注文をするとすぐ、彼はひそめた声でこう云った。

「やっぱりそうでしたの」おたよは横眼で睨んだ、「――やっぱりその千草という方となにかおありでしたのね」

「ばかなことを云わないで下さい、私はまじめです、こんどこそおちつける、条件もいいし自分でも悟るところがあった、こんどこそおちついて、少しはおたよにも楽な生活がさせられると思ったのに、やっぱりだめになってしまって、じつになんとも、面目ないといっていいか済まないといっていいか」

「もうたくさんです、わかっていますわ」

おたよはそっと良人の腕に触った。

――あなたはいつも自分の取るものを投げだして、誰かを救ったり庇ったり、仕合せにしてやったりなさる。どうしても、そうなさらずにはいらっしゃれないし、これからもその御性分は変らないでしょう、それでいいのです。おたよはそういうあなたが好きです。そういうあなたとごいっしょに暮すことができれば、それだけでおたよは仕合せですわ。

彼女はこう云いたかった。しかし、じっさいには逆に、やさしく睨んで、もっと声をひそめながら云った。