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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

二

――そんなにも邪魔なんだろうか。

二

峠を登りつめると、松平対馬守(四万六千石)の城下が見える。峠の下にある仲山という宿場が、ほぼ領境に当り、そこから城下町まで約一里ほどあった。

「やあ御苦労さま、此処で結構ですよ」

峠の上の茶店の前まで来ると、客は胆石病の話をやめてそう云った。

「いや仲山まで持ってまいりましょう」伊兵衛はあいそ笑いをした、「駄賃は此処まででよろしいのですが、戻りの客をひろうのに仲山までまいります、どうせついでですからお持ち致しましょう」

「いやもう結構、それには及びませんよ」客はこう云って、鼻紙と銭入を出し、伊兵衛の見ている前で、銭を一枚二枚と数えたうえ、少ないがこころづけだと、なお三枚加えて、その鼻紙で包んでさしだした、「おかげで楽に峠を越しました、また御縁があったらお頼みしますよ」

そして荷物を受取って、茶店の中へと入っていった。

――どうしようか。

伊兵衛はちょっと迷った。仲山まで客をひろいにおりようか、それとも今日はこれで帰ろうか……迷いながらふと、いま貰った駄賃の包をあけてみた。なんとなく手触りがへんだったからであるが、あけてみると、鼻紙の中には小さな石ころが五つあるだけだった、一枚の銭もないし、銭らしいなに物もなかった。