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ゆきこんじゃくものがたり

雪今昔物語

中谷 宇吉郎

「自然」1947(昭和22)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页

青空文庫

八

とある。結晶がどうなっているか、気が気でない状態が、この字句の裏にちゃんと見えるのも苦笑ものであるが、この時は苦笑どころの騒ぎではなかった。しかしそれにすぐ引き続いて「二時二十五分陛下入御、列立拝謁は一分くらい陛下の龍顔を直視できるので有難し。お肥りにて御色よく光輝く許り也。万歳也」という一句がある。当時の心のはずみが思い起される次第である。

八

日記は次のように続いている。

それより走って低温室に帰り室に入って見る。二号と三号との分は駄目。一号BとC良し。角板と樹枝と二種出来おり美事なり。胸がドキドキする。五十分がかりにて結局全部ととのえ外へ出て見ると陛下のお車がもう前に来ている。あわてて事務室にかくれ防寒服を脱ぎ、実験室にてお待ちす。御説明全文(略)

陛下の御熱心なる事には恐懼。一々写真を見て頷かれ、また一々各句切りごとに「アア」とか「ウン」とかお声をかけられたのには驚いた。僅か三尺も離れていぬ所での御説明で、写真は一々棒にてお示しする。お付きの方々大勢。皆シーンと静まり返り、自分の声が何となく澄んで響くようだった。

御説明後急いで事務室に帰り、防寒服を着て先に低温室内に入り、電燈をつけてすっかり準備をしてお待ちす。