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ゆきこんじゃくものがたり
雪今昔物語
中谷 宇吉郎
「自然」1947(昭和22)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页
三
最初の偶然の成功以来、まだ六カ月も経っていないのであるから、無理もないことであった。
そういう時期に、十月八日に北大行幸がきまり、午後三時三十分から二分間陛下が低温室へおはいりになるから、ちょうどその時刻に結晶を作っておいてお目にかけるようにというお達しである。それをお引受けしたのであるから、後から考えてみれば、随分大胆な話であった。
それには時代の空気が大きい役割をもっていたのである。御先導の巡査部長が予定より別の通路を御案内したといって自殺したり、小学校の校長は、御真影奉安所が焼けると、火の中にとびこまねばならなかった時代であった。到頭宮内省から御思召しとして、そういうことは止めるようにというお達しまで出たが、愚昧なる世論がそれを許さなかった。陛下の御意志に反してまでも、いわゆる忠君愛国の強請が行なわれた悪夢の時代である。
三
陛下が零下二十五度の低温室におはいりになるというのは、恐らく空前絶後のことである。その時にもし結晶が出来ていなかったら、たいへんなことになるであろう。
それでどうしても「絶対に間違いなく」決った時刻に決った形の結晶を作ることを考えねばならない。