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ゆきこんじゃくものがたり
雪今昔物語
中谷 宇吉郎
「自然」1947(昭和22)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页
九
陛下も同様な防寒服、頭巾、頬のお色鮮か也。靴は赤皮長グツ。顕微鏡御説明申し上ぐ。御興深げ也。一応すんで結晶の出来ていない装置の顕微鏡までお覗きになる。困る。二分以内とのお達しに付「もう御説明申し上げることはこれだけでございます」と帽をとって御挨拶申し上ぐ。やっとお帰りになる。
一緒に室内に入られし方、松平宮相、湯浅内大臣、鈴木侍従武官長、侍従一方、武官一方、五人の由。松平宮相「何度ですか」との問いに「零下二十五度でございます」と答えたら「案外寒くない気持よいくらいだ」とのお話也。
急いで外へ出てお見送りす。これから工、医両学部へお成り。待っている間に、柳、大賀、田所氏等に雪の結晶を見せる。皆綺麗に出来たと大喜び。何だか急に肩が軽くなりヤレヤレ也。
有難い事也。
柳田、戸田君等一同来、低温室と天覧室とで記念写真をとる。
夕食にお祝、酒盃に四杯のむ。
九
盃に四杯の酒というのは、六カ月ぶりのことであった。四月ごろから身体の調子が悪く、食後に胃が痛んで、ひどく痩せてきた。胃潰瘍とか、十二指腸潰瘍とか、慢性腹膜とか、いろいろの診断があったが、結局長期の療養が必要であることは観念していた。