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ゆきこんじゃくものがたり
雪今昔物語
中谷 宇吉郎
「自然」1947(昭和22)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页
雪の結晶を人工で作ることと、指定された実験で望みのものを作ることとの間には、五年余りの年月が必要であったのである。天皇陛下を低温室内にお迎えした日の苦心も、今では昔語りになってしまった。芽出たい話である。
話は昨年、即ち昭和二十一年の秋にとぶ。終戦後一年を経て、漸く混乱もおさまりかけたかと思う頃、鉄道のストライキ騒ぎで、また不安がもり返して来た。その九月の初め頃、一寸長い旅行から帰って来たら、東大の小谷教授から手紙が来ていた。東宮職の方で君に殿下へ雪の御進講を希望しておられるが、都合はどうかという問合わせである。そして時期はいつとは決めないから、上京のついでの時に、一度機会を作って欲しいと書き添えてあった。まことに有難いことで謹んでお受けするという返事を書いた。それにしても、わざわざ出かけて来るには及ばない、いつでも上京のついでの時でいいという御鄭重なお話が、かえって私の頭の奥に淡い陰を残した。戦前の華やかだった日本の国の姿が、ふと心に蘇って来たからである。
早速出張のことについて、総長に相談してみたところ「他のこととはちがうから、いつでも上京して差支えない。