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ゆきこんじゃくものがたり

雪今昔物語

中谷 宇吉郎

「自然」1947(昭和22)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页

青空文庫

六

それでは実験の一番むつかしい期間の二時間を、誰も人がつかずに放っておかなければならない。それで雪の結晶が出来たら不思議である。

慌てて明日の列立拝謁を御辞退出来ないかときいてみたら、それは絶対に許されないという。理由は極めて明瞭で、もう名簿にのっているからというのである。「一人だけ抜けたままにしておくことは出来ないし、それを詰めると数が合わなくなる」というので、到底許されそうもない。大学当局としては、そんなことをして、責任にでもなったら大問題なのであろう。それでその方はあきらめて、無人実験を敢行する決心をした。

無人実験をするとなると、今から手順を変更しなければならない。しかし三人の助手諸君に徹夜をしてもらえば、明朝までには間に合う目算が出来た。「当日は御入室の前に助手などはもちろん入室させませんでした」と一言云うためには、その蔭に大分苦労があるわけである。「如何なることがあっても、絶対に不敬なことがないように」と「如何なることがあっても、絶対に実験に失敗しないように」とが、鉢合わせになった恰好である。

六

ところで断っておかなければならないことは、雪の結晶は、予め作っておいて、それを低温室内に貯蔵しておいて、陛下が御入室になった時にお目にかけるというわけにはゆかないのである。