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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

翠の帳、紅の閨を、無断で通り抜ける気がして肩身が細い。

覗きはしないが、小窓、子に透いて見える、庭背戸には、萩の植込、おしろいの花。屋根越の柳の青い二階も見えた。あれは何の謎だろう。矢羽の窓かくしの前に、足袋がずらりと干してある。都鳥と片帆の玩具を苞に挿した形だ、とうっとり見上げる足許に、蝦蟇が喰附きそうな仙人掌の兀突とした鉢植に驚くあとから、続いて棕櫚の軒下に聳えたのは、毛の中から猿が覗きそうでいながら、却ってさまようものをしばらく彳ませ、憩わせる蔭を見せた。その仙人掌に下駄をつまだて、棕櫚に帽子をうつむけなどして、横に曲り縦に通ると、一軒、表二階の欄干を小さな楓に半ば覗かせて、引込んだ敷石に、いま打った水らしい、流れるばかり雫が漾う網代戸を左右に開いた、つい道端の戸口に、色白な娘が一人、芸妓の住居でないから娘だろう。それとも年の少いかみさんだろうか。――

(――かみさんだと、あとの直槙の話にそのままだが、誂え通りそうはゆくまい。――)

女中に職すぎるのが、踞んで、両膝で胸を圧えた。お端折下の水紅色に、絞りで千鳥を抜いたのが、ちらちらと打水に影を映した。