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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

三

……ただし窮してまで虎の皮代用の申訳をした、というので、浅間山の麓の茶屋の亭主は語り、六部の爺様は聞いて、世に伝えたのは事実らしい。

三

これに続いて、

目白辺の屋敷猫を殺しむくいし事

下谷辺にて浪人居宅化霊ありし事

三州岡崎宿にて旅人狒々に逢う事

奥州にて旅人山に入り琴の音を尋ねる事

題を見ただけでも、唐から渡りものの飜案で、安価な上方版のお伽稗子そのままなのが直ぐ知れる。

新吉原山口にて客幽霊を見し事

同角町海老屋の女郎客の難に逢いし事

二つとも、ものあわれな譚だが、吉原の怪談といえば、おなじようなのがいくらもあります。

上野国岡部の寺にて怪しき亡者の事

美濃国の百姓の女房大蛇になる事

どうも灰吹から異形になって立顕われるのに、蓋をしたい、煙のようなのが多い。誰の気もおなじと見えて、ずらりと並べた目録の上に、いつかこの写本を見た読者の心をひいたらしく、ただ一つ題の上に、大きな○をかけた一条がある。

○浅草新堀にて幽霊に行逢う事

曰く、ここに武家、山本氏某若かりし頃、兄の家に養わる、すなわち用なき部屋住の次男。五月雨のつれづれに、「どれ書見でも致そうか。」と気取った処で、袱紗で茶を運ぶ、ぼっとりものの腰元がなかったらしい。