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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

五

が飛込んだ。

そのまま突落されたように出た処は、さいわい畜生道でも魔界でもない。賑かな明い通りで、血腥いかわりに、おでんの香が芬とした。もう一軒、鮨の酢が鼻をついた。真中に鳥居がある。神の名は濫に記すまい……神社の前で、冷たい汗の帽子を脱いだ。

自動車が来たので、かけ合った、安い値も、そのままに六本木。やがて、赤坂檜町へ入って、溜池へ出た。道筋はこうなるらしい。……清水谷公園を一廻りに大通を過ぎて番町へ帰ったが、吻として、浴衣に着換えて、足袋を脱ぐ時、ちょっと肩をすくめて、まず踵、それから、向脛を見て苦笑したのは、我ながら呆けている。

けれども、直槙の事は、真面目にお聞きを願う。お聞きになると、あんまり呆けていないのにお心附きになろうかと思う。……

さて、以下、直槙から聞いた話を、そのままお伝えするのである。

五

二人対坐で、酌人はわざと居なかった。獅子屋さんは盃をちょっと控えた。

「――雪の家、……雪の家というその待合です――

(今日は、ご免下さい。)

あなた方はそうした格子戸を開けて、何といって声をお掛けになりましょうかしら……おかしな口のきき方です、五月雨時の午後四時ごろ、初夏真昼間だから、なおおかしい。