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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
旅費のつかい残りで、すぐに石油を買う体裁、なけなしの内金で、その夜は珍らしく肴を見せた、というのが、苦渋いなまり節、一欠片。大根おろしも薄黒い。
が、「今に見たまえ、明日にも大船で一艘台湾へ乗出すよ。」で、すぐにその晩、近所の寄席の色ものへ連出して、中入の茶を飲んで、切端の反古へ駄菓子を撮んで、これが目金だ、万世橋を覚えたまえ、求肥製だ、田舎の祭に飴屋が売ってるのとは撰が違う、江戸伝来の本場ものだ。黒くて筋の入ったのは阿蘭陀煉、一名筏羊羹。おこしを食うのに、ばりばり音を立てなさんな、新造に嫌われる、と世話を焼いて、帰途が、屋台の牛めしです。寝床で話しながら遣らかそう、と精進揚を買って帰る。易くて腹にたまっていいと云ううちにも、油ものの好きな男で。
――ですから、のちに、私がその「魔道伝書」のすき見をした時も炬燵櫓……(下へ行火を入れます)兼帯の机の上に、揚ものの竹の皮包みが転がっていました――
そういった趣で、啖う事は、豆大福から、すしだ、蕎麦だ。天どんなぞは驕の沙汰で、辻売のすいとん、どうまた悟りを開いたか、茶めし、餡かけ、麦とろに到るまで、食いながら、撮みながら、その色もの、また講釈、芝居の立見。