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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
そうと知ったら、言いますまいものを。……水は、実は途中で、三度ぐらい飲んでいましたから、東海会社社長の顔を見ると斉しく、息が切れる、茶を一杯、といって、それから焼芋、蕎麦、大福の謎を掛けた。申すまでもなく煙草入をなくした顛末を饒舌ってからですが、これに対する社長の応対は、ただ今お聞かせ申した通り。
湯を沸す炭もなく、茶も切れていたのです。年も二十以上違っている。どうしてこんな細君を。いや、あの、片時も手離さない「魔道伝書」を見るがいい。お冬さん、上品な、妍美い娘は、魔法に、掛けられたものでしょう。
千駄木へ帰ってから、師匠に鉄道馬車の監督の話をすると、気に入った。その寛容と深切に対しても、等閑に棄てては置けない、料金は翌日にも持参しなさい。で、二日ばかりおいて、両国まで、その持参です。……なくなしたお小遣の分まで恵与に預る。……余程曳船へ廻りたかった。堅豌豆ぬきの精進揚か、いや、そんなものは東海会社社長の船には積むまい。豆大福、金鍔か。それは新夫人の、あの縹緻に憚る……麻地野、鹿の子は独り合点か、しぐれといえば、五月頃。さて幾代餅はどこにあろう。