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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

喝! ああ驚いた。掛けものめ。

「あっ! ははは。」

いきなり、男のように笑いかけて、

「驚かそう思うて、わざと、こっそりと上って来たぞに。心易立てや。ようこそに、ようこそに、こんな処まで、嬉しいこっちゃ。や、もう洞斎兄の事や、何の事や、すぎ去った。そんな挨拶はさらりとおくこっちゃ、にい。縁あればこそ、生あればこそ、北と南と、何十年分れたものが訪いつ訪われつ、やぞに。それに、そういう行儀は何じゃ、袴はいたり、膝にお手々をちゃんとついたり、早や、その手をぬいと伸ばいて、盃を持つ格好に、のう。」

人に口は利かせない。被布から皺びた腕を伸ばして、目八分に、猪口をあげる指形で、

「何とかいうたに、それ、それ、乾盃、あれに限るぞに、いい事じゃ。洞斎兄は沢山は飲まなんだけれど、島田髷の妹は少し飲るがやぞ。これでもに、古馴染や、遠慮はない。それにどこへ来なされた思うて、そのように堅うして。……花柳界、看板を出した待合や。さ膝を崩いて、楽にござって、尼かてこの年、男も同然、胡坐を掻いても人は沙汰せん。それに袴はいとるぞに。」

また高笑いで、

「……そこで念のため云うておくがですが、内証話をあけすけなが、あんたも世間が解っておいでや。