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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
西の方、その坂東第一番に向った。その後沙汰はない。しかし、灸は実によく利いた。人間業に似ない、と界隈一帯、近く芝、となり赤坂辺まで、その行方を惜しむといいます。
――雪の家は、川崎辺へ越した、今はありません。
尼が畜生道に堕ちるのを救うといったのも、怪しい縁によって、私はおびき寄せたのも、……どうもはじめから、兄洞斎の、可恐い嫉妬の怨念に酬ゆる、復讐の呪詛だったとも思われません。しかしまた怪しい業通によって、かねて企図したものだったかも知れません。何にしても、私のために、かわいそうな、はかない、お冬……」
と、いうとともに、直槙は胸を切られたように、蒼ざめて、両手で肩を抱いたのでありました。
毛が生えていたかも知れない。血をはいていたかも知れない。その胸を、とは、さすがに筆者も聞き得なかった。
直槙がなくなって、もう三年になる。
筆者は、あの時以来、一本松へはまだ行って見ないで居る。恐れて毛並は見定めなかった、坂を駆出したのは、残った獅子だったかも知れません。
だから、家へ帰って、少しばかり足を気にしたのも、そんなにお笑いにはなるまいと思う。………