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しんさいにっし
震災日誌
喜田 貞吉
「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页
今朝来すべての人から繰り返された物騒極まる風説については、自分は最初から信じなかった。この白墨の記号についても、実は誰かが人騒がせにした悪戯ではないかとも疑ってみた。しかしあちらにもあった、こちらにもあったと聞かされては、いわゆる衆口金を鑠すで、勢い半信半疑とならざるを得ぬ。自分の宅もかねて狙われていたのかと、危懼を抱いていたさいに、右の裏門打毀しの騒ぎがあったのだ。一時は本当のことかとビックリさせられたのであったが、その原因が判ってヤッと安心することが出来た。(追記。後に聞くところによれば、右の白墨の記号は清潔社の得意先の目じるしに施したものだという。疑心暗鬼を生ずるとはこのことだ。)
夜になると警戒がいよいよ厳重だ。空を焦す大火の炎は相変らず続いている。町内の人々は昨夜と同様電車線路や護国寺前の広場に露宿している。電燈もない暗闇の道をしばしば騎兵の列が通る。道の辻々には銃剣を帯した兵士が固めている。午後に戒厳令が敷かれたのだ。昨夜からぞくぞくとして絶える間のない避難者の列は、夜になっても一向に減らぬ。富士見坂上から護国寺前まで、宅の前の通り二町余の間に五ヵ所の警固所が出来た。