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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

――ね奥さん、あしたの晩、女ばっかりで遊びにいきましょうね。」

しかし茂緒はそれどころでなかった。酒をかい、肉を買い、また米を買って、ふところさびしくなったことだけでもはらはらしているのに、遊びになどどうしてゆけよう。茂緒がひとりひそかに滅入っているのをよそに、五人の詩人や作家の卵たちは談論風発、話はつきなかった。五合の酒はそれに油をそそいで、夜のふけるのを忘れさせた。ただひとり茂緒だけが、酒ものめず、話もわからず、ときどき立って水をくみ、ときどき立って七輪に炭をつぐ。茂緒にもわかる話といえば、この人たちや、この人たちの知りあいらしい人たちが、質種につきて綿メリヤスの汚れたままのシャツや座ぶとんまで質屋にもっていってことわられたり、くいつめて友人の家を一日ずつ居候めぐりをするというようなことだけだった。しかも、都会にそんな貧乏のあることを楽しそうに、ときには自慢して語っているふしぎさであり、修造までが、そういうことをつづけていたらしいことだ。ひそかな不信と幻滅に茂緒の気は重っていた。ききたいことが一ぱいで、早く修造とふたりになりたいと思うのに、みんなは泊るといいだした。