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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
五
それは、弟のこれまでの生活が、ふまじめの連続であり、心配のかけ通しででもあったような文章であった。
「あんたって、ほんとに不孝者だと思われてたのね。」
「てたんじゃなくて、てるんだよ。」
「わたしもそうよ。心配のかけ通しだったわ。でも……」
ふっと涙ぐみそうになるのへ、修造は「なんだ?」という顔をした。茂緒は笑って、
「にようた(似合った)釜に、にようた蓋かもしれん。」
「われ鍋に、とじぶただろ。」
五
修造が一軒借りたのに刺激されたらしく、部屋がりのNと扶佐子も家さがしをはじめた。修造の仕事のないときなど、二組の夫婦は、ふらりふらりと郊外を歩きまわった。ふと通りかかった道ばたや路地の奥に、著名な作家の住居を見つけては立ちどまったり、見あげたりした。田山花袋という表札は道からすぐ玄関の格子戸に手のとどくような、粗末な古い二階家だったし、やさしい字の表札がかかった鈴木三重吉の家は芝生の土塀にかこまれた小さな家だった。葛西善蔵ときたら、茂緒の家と川一つへだてた、ごみごみの町の長屋にいた。それらの人たちの玄関の戸を叩くほどのかかりあいさえない若さで、はるかな人たちにめいめいの思いをよせながら、また、ふらりふらりと歩く。