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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
赤い顔をしていた。
「扶佐子さんに会わなかった?」
「いいや。」
「おもしろかったわ、今日。なんとかミラセチって人や、ドンさんにあったの。」
修造はふきげんな様子で、それを聞いていた。
「でも、ああいうとこ、もうこりこりよ。わたしきらい。いつもあんなの。修造くんによろしくっていった人もあったわ、みんなふよごろ(口ばかり達者でごろごろしている人間)みたいですもの。小豆島ならさしずめ、みんなふよごろだといわれるわ。」
「そうだろ。ぼくも、ふよごろだろうっていうんだろ。」
茂緒ははじめて気まずさを味わった。修造の友だちをよく知りもしないで生意気を言ったことに気づいてわびた。わびると、修造の方もすなおになるらしく、こんどはきげんのよい顔で、
「しかしなんだね。ほんといえば、そうなんだ。おふくろにも、兄きにも、ふよごろだって、よくいわれたからな。」
まだ片づけ残している、部屋の隅の柳行李をみていう。行李は新しいのも古いのもあった。「一番」の大行李はもう茶色になっていて、蓋の腹にはS・Iときちょうめんなローマ字がかいてあり、隅の青い布の糸目がほどけていた。あとは二番と三番ばかりだった。