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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
そしてその不当さの中には、扶佐子や多枝が、仲間の男たちのあいだを転々としていることにもあるように思えた。女が馬鹿なのか、男がずるいのか、茂緒の心でははかりしれなかったが、女のだらしなさでないことだけはわかって、歯ぎしりする思いもあった。扶佐子はNと一しょになる前に、なんども男にすてられたというし、多枝はまた社会運動で獄にとらわれているという噂の夫をはなれて放浪し、Iは噂だけでも何人目かの夫だということだった。彼女はその獄中の人とのあいだに生まれ、そしてなくなった子供の遺骨を持ち歩いていた。無気味といえば無気味だが、それだとて承知のうえでIは彼女と結ばれたのであろうに、夫たちは、なぜ妻たちを落ちつかせないのであろうか。それは茂緒にまで、ときに不安を感じさせたりする。ともあれ、三夫婦が近所に集まったことで、市内にいた仲間の詩人のHも少し離れたところに越してき、世田谷界隈はいつもにぎわった。ひまさえあると、だれかの家へ集まって、ゴールデンバットの空箱で作った啄木カルタに夜をふかしたりした。それらの文学青年ばかりでなく、じっさいの運動にたずさわっているという若い男たちも多く集まってきた。