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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

「姉さんの手紙、みたわ。」

「…………」

「どうして、わたしにかくすの。どうしてわたしにきかないの。」

「おれには分かってたからさ。」

「分かってれば、見せたっていいでしょ。倉島さんなんて、大っきらいなのに。」

「森田の方はそうじゃないというのか。」

茂緒はもう、ものをいう気も失せ、ひとり泣いた。まさか今さら嫉妬だとは思わぬが、修造だとて、同じような経験のあったことを知ってもいたし、おたがいに痛手をもつ過去に一応の線をひいて、立ち入らぬことを暗黙のうちに約束していたのに、ぬけぬけと男は女をせめ、あなどり、さげすんでいるのを感じた。

そんなことがあって間もなく、倉島はとつぜん上京してきたのだった。茂緒はさすがにバツがわるく、言葉少なく接した。

「四五日、泊めてくれるかいや。」

彼は修造にむかって、いつもの田舎言葉まるだしでいった。

「いいよ、四五日でも十日でも。」

傷病兵の倉島は月額四十円の恩給と鉄道パスをもっていて、今では結核も一応の落ちつきをみせ、生活のうえでも一応の安定をもっていた。療養中にはずっと小説をかいていて、そのいくつかを持って上京したのだった。

「読んでみて、くれいや。