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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

すると熊城君、この場合鐘楼には、一人の人間の演奏者以外に、もう一人、奇蹟的な演奏を行える化性のものがいなければならない。ああ、あいつはどうして鐘楼へ現われたのだろうか?」

「それなら、何故先に鐘楼を調べないのだね?」と熊城が詰り掛ると、法水は、幽に声を慄わせて、

「実は、あの倍音に陥穽があるような気がしたからなんだ。なんだか微妙な自己曝露のような気がしたので、あれを僕の神経だけに伝えたのにも、なんとなく奸計がありそうに思われたからなんだよ。第一犯人が、それほど、犯行を急がねばならぬ理由が判らんじゃないか。それに熊城君、僕等が鐘楼でまごまごしている間、階下の四人はほとんど無防禦なんだぜ。だいたいこんなダダっ広い邸の中なんてものは、どこもかしこも隙だらけなんだ。どうにも防ぎようがない。だから、既往のものは致し方ないにしても、新しい犠牲者だけは何とかして防ぎ止めたいと思ったからなんだ。つまり、僕を苦しめている二つの観念に、各々対策を講じておいたという訳さ」

「フム、またお化けか」と検事は下唇を噛みしめて呟いた。「すべてが度外れて気違いじみている。まるで犯人は風みたいに、僕等の前を通り過ぎては鼻を明かしているんだ。