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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
まさに至言なんだよ。まして、この館には、所々円天井や曲面の壁や、また気柱を作っているような部分もあるので、僕は混沌としたものを想像していた。ところが、先刻はあんな澄んだ音が聞えたのだ。外気の中へ散開すれば、当然残響が稀薄になるのだから、その音は明らかに、テラスと続いている仏蘭西窓から入って来る。それを知って、僕は思わず愕然としたのだ。では何故かと云うと、どこかに、建物の中から広がってくる、噪音を遮断したものがなけりゃならない。区劃扉は前後とも閉じられているのだから、残っているのは、拱廊の円廊側に開いている扉一つじゃないか。しかし、先刻二度目に行った時は、確か左手の吊具足側の一枚を、僕は開け放しにしておいたような記憶がする。それに、あそこは他の意味で僕の心臓に等しいのだから、絶対に手をつけぬように云いつけてあるんだ。無論それが閉じられてしまえば、この一劃には、吸音装置が完成して、まず残響に対しては無響室に近くなってしまうからだ。だから、僕等に聞えてくるのは、テラスから入る、強い一つの基音よりほかになくなってしまうのだよ」
「すると、その扉は何が閉じたのだ?」