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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
法水は続いて云った。
「ところで、絶命時刻の前後に、誰がどこで何をしていたか判ればいいのだがね。しかし、これは鐘楼の調査を終ってからでもいいが……、とりあえず熊城君、傭人の中で、最後に易介を見た者を捜してもらいたいのだ」
熊城は間もなく、易介と同年輩ぐらいの召使を伴って戻ってきた。その男の名は、古賀庄十郎と云うのだった。
「君が最後に易介を見たのは、何時頃だったね」とさっそくに法水が切り出すと、
「それどころか、私は、易介さんがこの具足の中にいたのも存じておりますので。それから、死んでいるという事も……」と気味悪そうに死体から顔を外けながらも、庄十郎は意外な言を吐いた。
検事と熊城は衝動的に眼をったが、法水は和やかな声で、
「では、最初からの事を云い給え」
「初めは、確か十一時半頃だったろうと思いますが」と庄十郎は、割合悪怯れのしない態度で答弁を始めた。「礼拝堂と換衣室との間の廊下で、死人色をしたあの男に出会いました。その時易介さんは、とんだ悪運に魅入られて真先に嫌疑者にされてしまった――と、爪の色までも変ってしまったような声で、愚痴たらたらに並べはじめましたが、私は、ひょいと見るとあまり充血している眼をしておりますので、熱があるのかと訊ねましたら、熱だって出ずにはいないだろうと云って、私の手を持って自分の額に当て