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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「そうですか、博士に……」といったん法水は意外らしい面持をしたが、烟をリボンのように吐いて、ボードレールを引用した。

「では、さしずめその関係と云うのが、吾が懐かしき魔王よなんでしょうか」

「そうです。まさに吾なんじを称えん――じゃ」真斎は微かに動揺したが、劣らず対句で相槌を打った。

「しかし、ある場合は」と法水はちょっと思案気な顔になり、「洒落者や阿諛者はひしめき合って――」と云いかけたが、急にポープの『髪盗み』を止めて『ゴンザーゴ殺し』(ハムレット中の劇中劇)の独白を引き出した。

「どのみち、汝真夜中の暗きに摘みし草の臭き液よ――でしょうからね」

「いや、どうして」と真斎は頸を振って、「三たび魔神の呪詛に萎れ、毒気に染みぬる――とは、けっして」と次句で答えたが、異様な抑揚で、ほとんど韻律を失っていた。のみならず、何故か周章いて復誦したが、かえってそれが、真斎を蒼白なものにしてしまった。法水は続けて、

「ところで田郷さん、事によると、僕は幻覚を見ているのかもしれませんが、この事件に――しかるに上天の門は閉され――と思われる節があるのですが」と法水は、門という一字をミルトンの『失楽園』