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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それよりこれを、いずこに住めりや、なんじ暗き音響――なんですがね」とデーメールの「沼の上」を引き出したが、相変らずセレナ夫人から視線を放そうとはしなかった。

「ああ、それではあの」とクリヴォフ夫人は、妙に臆したような云い方をして、「でも、よくマア、伸子さんが間違えて、朝の讃詠を二度繰り返したのを御存じですわね。実は、今朝あの方は一度、ダビデの詩篇九十一番のあの讃詠を弾いたのですが、昼の鎮魂楽の後には、火よ霰よ雪よ霧よ――を弾くはずだったのです」

「いや、僕は礼拝堂の内部の事を云っているのですよ」と法水は冷酷に突き放した。「実は、この事を知りたいのです。あの時、確かそこにあるは薔薇なり、その附近には鳥の声は絶えて響かず――でしたからね」

「それでは、薔薇乳香を焚いた事ですか」レヴェズ氏も妙にギコちない調子で、探るように相手を見やりながら、

「あれはオリガさんが、後半よほど過ぎてから一時演奏を中止して焚いたのですが、しかし、これでもう、滑稽な腹芸はやめて頂きましょう。儂どもは貴方から、人形の処置について伺えばよいのですから」

「とにかく明日まで考えさせて下さい」