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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

セレナ夫人もレヴェズ氏も両手を神経的に絡ませて、言葉を発する気力さえ失せたらしい。法水は眠りから醒めたような形で、慌てて莨の灰を落したが、その顔はセレナ夫人の方へ向けられていた。

「ところでセレナ夫人、その風来坊はいずれ詮議するとして、時にこういうゴットフリートを御存じですか。吾れ直ちに悪魔と一つになるを誰が妨ぎ得べきや――」

「ですけど、その短剣……」と次句を云いかけると、セレナ夫人はたちまち混乱したようになってしまって、冒頭の音節から詩特有の旋律を失ってしまった、「その短剣の刻印に吾が身は慄え戦きぬ――が、どうして。ああ、また何故に、貴方はそんなことをお訊きになるのです?」としだいに亢奮していって、ワナワナ身を慄わせながら叫ぶのだった。「ねえ、貴方がたは捜していらっしゃるのでしょう。ですけど、あの男がどうして判るもんですか。いいえ、けっしてけっして、判りっこございませんわ」

法水は紙巻を口の中で弄びながら、むしろ残忍に見える微笑を湛えて相手を眺めていたが、

「なにも僕は、貴女の潜在批判を求めていやしませんよ。あんな風精の黙劇なんざあ、どうでもいいのです。