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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

さっそく熊城が法水の云うとおりにすると、最初に「腑分図」の上方にある灯が消え、続いて、右手のド・トリー作「一七二〇年馬耳塞の黒死病」の上方から、右斜めに落ちている一つも消えたので、階段廊に残っている光と云えば、左手のジェラール・ダヴィッド作「シサムネス皮剥死刑之図」の横から発して、「腑分図」を水平に撫でている一つのみになってしまった。が、その一燈に当る開閉器は、階段の下にあるのだった。すると、それまで現われていた渋い定着が失われて、「腑分図」の全面には、眼の眩むような激しい眩耀が現われた。さらに、最後の一つが捻られて頭上の灯が消えると、法水はポンと手を叩いて、

「これでいいのだ。やはり、僕の推測どおりだったよ」

ところが、それからしばらくの間、前方の画中を血眼になって探し求めていたけれども、三人の眼には、眩耀以外の何ものも映らなかった。

「いったいどこに何があるんだ」と床を蹴って、熊城は荒々しく怫然と叫んだ。が、その時なにげなしに、真斎が後方の鋼鉄扉を振り向くと、そこには熊城の肩を、思わずも掴ませたものがあった。

「アッ、テレーズだ!」

それは、まさしく魔法ではあるまいかと疑われたほど、不可思議奇態をきわめた現象であった。