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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

最初は、建物の内外に光度の差がはなはだしいことが、彼に時として、偶然にしてはあまりに不思議な残像を見せる場合があった。そして、あげくに幻聴を聴くほどの症状になったと云うのは、彼の室の窓外が鉄道線路であって、そこを通過する列車の響が、絶えず Resend Blehmel(気狂いブレーメルの意)と繰り返すように聴かれたからだったのだ。しかし父親が息子の病状に驚いて自宅へ引き取ったので、そこでブレーメルの精神状態が、からくも崩壊を免れたのだ。それがまた、奇蹟に等しいのだよ。寄宿舎を出てしまうと同時に、彼には幻視も幻聴も現われなくなり、間もなく健やかな青春を取り戻すことが出来たのだからね。ねえ熊城君、君は刑法家じゃないのだから、あるいは知らないかもしれないが、刑務所の建築様式によっては、拘禁性精神病が続出するのも、また、それが皆無なのもあるそうだよ」

法水は、そこで新しい莨を取り出して一息入れたが、依然知識の高塔を去らずに、続いて、よりも痛烈な引例に入った。

「時代は十六世紀の中葉フェリペ二世朝だが、この一つは、淫虐的な嗜血癖の、むしろ異例的標本とでも云うものなんだ。