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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
だいたい鐘楼の点鬼簿には、人間の亡者の名が、一人も記されていないのだからね」
「化物どころか、勿論人間でもない。それが、鐘鳴器の鍵盤なんだよ」法水はチカッと装飾音を聴かせて、そこでも二人の意表外に出た。「ところで、これは一つの錯視現象なんだが、例えば一枚の紙に短冊形の縦孔を開けて、その背後で円く切った紙を動かして見給え。その円が激しく動くにつれ、しだいと楕円に化してゆく、ちょうどそれと同じ現象が、上下二段の鍵盤に現われたのだ。ところでここに、頻繁に使う下段の鍵があったとしよう。そうすると、その絶えず上下する鍵を、上段の動かない鍵の間から瞶めていると、その下段の鍵の両端が、上段の鍵の蔭に没していく方の側に歪んでいって、それが、しだいに細くなっていくように見えるのだ。つまり、そういう遠感的な錯視が起ると、それまで疲労によってやや朦朧としかけていた精神が、一途に溶け込んでゆく。勿論、それによって固有の発作が起されるのだ。だから熊城君、僕に極言させてもらえるなら、あの時伸子に三回の繰り返しを命じた、その人物が明らかになれば、とりもなおさず犯人に指摘されるのだよ」