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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

館に入ると、彼はすぐにクリヴォフ夫人の病床を見舞った。すると、折よく医師の手で意識が恢復されていて、上述の事情を、杜絶れながらも聴くことが出来た。しかし、それ以上の真相は、混沌の彼方で犯人が握っていた。その当時彼女は、窓を正面に椅子の背を扉の方へ向けていたので、自然背後にいた人物の姿は見ることが出来なかったと云う始末だし、また、その室に入る左右の廊下には、それぞれ一人宛の私服が曲り角の所で頑張っていたのだったけれども、誰しもそこを出入した人物はなかったと云うのだった。言葉を換えて云うと、その室はほとんど密閉された函室に等しく、したがって、私服の眼から外れて、いやしくも形体を具えた生物なら、出入は絶対不可能であるに相違なかったのである。法水は聴取を終ると、クリヴォフ夫人の病室を出て、さっそく問題の武具室を点検した。

その室は前面から見ると、正確に本館の真中央に当り、二条の張出間に挾まれていて、二つある硝子窓はそれだけが他とは異なり、十八世紀末期の二段上下式になっている。また、室内も北方ゴート風の玄武岩で畳み上げた積石造で、周囲は一抱えもある角石で築き上げられ、それが、暗く粗暴な蒙昧な、いかにも重々しげなテオドリック朝あたりを髣髴とさせるものであった。