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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

と伸子は何度も逼えながら、大きく呼吸を吸い込んでから、「それに、私には固有の精神障礙があって、時折ヒステリーの発作が起ります。ねえそうでございましょう。これは久我鎮子さんから伺ったことですけども、犯罪精神病理学者のクラフトエーヴィングは、ニイチェの言葉を引いて、天才の悖徳掠奪性を強調しております。中世紀全体を通じて最も高い人間性の特徴とみなされていたのは、幻覚を起す――云い換えれば、深い精神的擾乱の能力を持つにあり――ですと。ホホホホホ、これでございますものね。すべてがそろいもそろって、それも、明瞭過ぎるくらいに明瞭なんですわ、もう私には、自分が犯人でないと主張するのが厭になりました」

それは、どこか彼女のものでないような声音だった。――ほとんど自棄的な態度である。しかし、その中には妙に小児っぽい示威があるように思われて、そこに、絶望からき上ろうとする、凄惨な努力が、透し見えるのだった。云い終ると、伸子の全身を硬張らせていた靱帯が急に弛緩したように見え、その顔にグッタリとした疲労の色が現われた。そこへ、法水は和やかな声で訊ねた。

「いや、そういう喪服なら、きっとすぐに必要でなくなりますよ。