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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ところが、その寓喩は、実際とは反対なのでございました」

「いや、そういう童話めいた夢ならば、改めてゆっくりと見てもらうことにしよう――今度は監房の中でだ」と熊城が毒々しげに嘯くと、法水はそれを窘めるように見てから、伸子に云った。

「お構いなく続けて下さい。元来僕は、シェレイの妻君(メリー・ゴドウイン――詩人シェレイの後妻「フランケンシュタイン」の作者)みたいな作品は大嫌いなのです。ああいう内臓の分泌を促すような感覚には、もう飽き飽きしているのですからね。ところで、その白羽のボアが揺いだのは? それが鐘鳴器室のどんな場面で、貴女に風を送りましたね」

「実際を申しますと、その蛾は遂々、蝙蝠の餌食になってしまったのでございます。何故なら、私にあの難行をお命じになったのが、クリヴォフ様なんでございますものね。――それも、独りで三十櫓楼船を漕げって」と瞬間、冷たい憤怒が伸子の面を掠めたけれども、それはすぐに、跡方もなく消え失せてしまった。そして続けた。

「だって、いつもならレヴェズ様がお弾きになるあの重い鐘鳴器を、女の私に、しかも三回ずつ繰り返せよと仰言ったのです。