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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それより、ちょうどクリヴォフ様が、悲鳴をおあげになる一瞬ほど前のことでしたが、私はあの窓の側に、実は不思議なものがいるのを見たのですわ。それは、色のない透明ったものが光っているようでいて、そのくせどうも形体の明瞭としていない、まるで気体のようなものでした。ところが、その異様なものは、窓の上方の外気の中から現われて来て、それがふわふわ浮動しながら、斜めにあの窓の中へ入り込んで行くのでした。その一瞬後に、クリヴォフ様が裂くような悲鳴をおあげになりました」と伸子は、まざまざ恐怖の色を泛べて、法水の顔を窺うように見入るのだった。「最初私は、レヴェズ様があの際にいらっしゃったので、あるいは、驚駭噴泉の飛沫かなとも思いました。でも考えてみますと、だいたい微風さえもないのに、飛沫が流れるという気遣いはございませんわね」

「ふん、またお化か」と検事は顔を顰めて呟いたが、同時に唇の奥で、それとも伸子の虚言か――と附け加えたのは当然であろう。しかし、熊城はただならぬ決意を泛べて立ち上った。そして、厳然と伸子に云い渡したのだった。

「とにかく、この数日間の不眠苦悩はお察ししますが、しかし今夜からは、充分よく眠られるように計らいましょう。