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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

そして、虹を恋愛心理の表象にしているのだよ。ねえ支倉君、あの七色は、精妙な色彩画家のパレットじゃないか。また、ピアノの鍵の一つ一つにも相当するのだ。そして、虹の抛物線は、その色彩法でもあり、旋律法、対位法でもあるのだ。何故なら、動いてゆく虹は、視半径二度ずつの差で、その視野に入ってくる色を変えてゆくからだよ。つまり、レヴェズは、韻文の恋文を、虹に擬えて伸子に送ったのだ」

それによると、最初のうち法水は、レヴェズが虹を作ったことを、他の何者かを庇おうとする騎士的行為と見做していたらしかったが、さらに深く剔抉していって、ついにそれが恋愛心理に帰納されてしまうと、必然犯人がクリヴォフ夫人を射損じたことを、偶然の出来事に帰してしまうより他にないのだった。しかし、検事と熊城には、そのいずれもが実証的なものでないだけに、半信半疑と云うよりも、何故法水が虹などという夢想的なものにこだわっていて、肝腎の算哲の墓※発掘を行わないのだろう――と、それが何より焦しく思われるのだった。ことに、レヴェズの恋愛心理が、後段に至ってこの事件最後の悲劇を惹起しようなどとは、てんで思いも及ばなかったことだろうし、また、法水が押鐘津多子を犯人に擬したことにも、それ以外にある重大な暗示的観念が潜んでいようなどとは、勿論気づく由もなかったので