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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それから、昨日はセレナ様が……、あの方は、この乱咲蘭をたいそうお好みでございまして。ですが、このヤポランジイの葉だけは、仰言られるまでいっこうに気がつきませんでした」

矮樹ヤポランジイの枝に、二つの花が咲いた。すなわち、最も嫌疑の稀薄だった、旗太郎とセレナ夫人にも、一応はファウスト博士の、黒い道士服を想像しなければならず、したがってあの血みどろの行列は、新しい二人を加えることになってしまった。こうして、事件の二日目は、まさに奇矯変態の極致とも云うべき謎の続出で、恐らくその日が、事件中紛糾混乱の絶頂と思われた。のみならず、関係人物の全部が、嫌疑者と目されるに至ったので、その集束がいつの日やら涯しもなく、ただただ犯人の、迷路的頭脳に翻弄されるのみだった。

その二日後――ちょうどその日は黒死館で、年一回の公開演奏会が開催される当日であったが、検事と熊城は、法水の二日にわたる検討の結果を期待して、再び会議を開いた。それが、古めかしい地方裁判所の旧館で、時刻はすでに三時を廻っていた。しかし、その日の法水には、見るからに凄愴な気力が漲っていた。すでに一つの、結論に達したのではないかと思われたほど、顔は微かに熱ばんで、その紅潮には動的なものが顫えている。