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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
どうしてもメースンの『矢の家』みたいに、坑道でも発見されないかぎり、この事件の解決は結局不可能のような気がするんだ」
「それでは熊城君」と法水は満足そうに頷いて、衣袋の中から、例のディグスビイの、奇文を記した紙片を取り出した。すると、そこに何事か異常なものが予期されてきて、二人の顔に、なかば怯々とした生色が這い上っていった。法水は静かに云った。
「実を云うと、ディグスビイの秘密記法も、既にあの大階段の裏――だけで尽きていて、この奇文の中にある、告白と呪詛の意志を、示すに止まっていると考えられていた。ところが、故意に文法を無視したり冠詞のない点を考えると、そこから秘密記法の、おぞましい香気が触れてくるように思われた。ねえ熊城君、一つの暗号からまた新しいものが現われる――それを子持ち暗号と云って、ちょうどこの二つの文章が、それに当るのだよ。ところで、くどくどしい苦心談は、抜きにして、さっそく解読法を述べることにしよう。元来、暗号とは一見似てもつかぬ、二つの奇文のように見えるが、そのうち、最初の短文の頭文字だけを、列ねたものが暗号語なんだ。また、その鍵は、もう一つの創世記めいた、文章の中に隠されてあったのだよ。