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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
一、父よ、吾も人の子なりの考察――。
すでにそれは、如何とも否定し難い物云う表徴である。しかし、算哲が自説の勝利に対する狂的な執着からして、四人の異国人を帰化入籍させたのみならず、常軌を逸した遺言書を作ったり、また屍様図を描き魔法典焚書を行ったりして、犯罪方法を暗示したり捜査の攪乱をあらかじめ企てたという事が、はたして、三人のうちのどの一人に衝動を与えたか――その決定は勿論疑問なのだった。と云うものの、その父――の一語は、明白に旗太郎もしくは、セレナ夫人を指していて、あるいは旗太郎が、遺産に関する暴挙に復仇したものか、それともセレナ夫人が、なんらかの動機から、算哲の真意を知ることが出来て――それには、法水の狂的な幻影としか思われない、屍様図の半葉が暗示されてくるのであるが――もしそうだとすれば、夫人の矜恃の中に動いている絶対の世界が、あるいは、世にもグロテスクな、この爆発を起させたかもしれないのである。そうして、その意志表示が、吾も人の子なり――の一句に相違ないのだけれども、仮りにもしそれが偽作だとすれば、今度は押鐘津多子を、この狂文の作者に推定しなければならない。