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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「それだから君は、僕が先刻傴僂が療っていると云ったら、嗤ったのだよ。自然がどうして、人間の眼に止まる所になんぞ、跡を残して置くもんか」と一同を像の前に連れて行き、「だいたい幼年期からの傴僂には、上部の肋骨が凸凹になっていて数珠玉の形をしているものだが、それがこの像のどこに見られるだろう。だが、試しに、この厚い埃を払って見給え」

そして、埃の層が雪崩のように摺り落ちた時だった。噎っとなって鼻口を覆いながらも瞠いた一同の眼が、明らかにそれを、像の第一肋骨の上で認めたのであった。

「そうすると数珠玉の上の出張った埃を、平に均したものがなければならない。けれども、どんなに精巧な器械を使ったところで、人間の手ではどうして出来るものじゃない。自然の細刻だよ。風や水が何万年か経って岩石に巨人像を刻み込むように、この像にも鎖されていた三年のうちに、傴僂を療してしまったものがあったのだ。この室に絶えず忍び入っていた人物は、いつもこの前の台の上に手燭を置いていたのだよ。しかし、その跡なんぞは、どうにか誤魔かしてしまうにしても、その時から、一つの物云う象徴が作られていった。