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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

シャルコーの随想の中には、ケルンで、兄が弟に祖先は悪竜を退治した聖ゲオルクだと戯談を云ったばかりに、尼僧の蔭口をきいた下女をその弟が殺してしまった――という記録が載っている。また、フィリップ三世が巴里中の癩患者を焚殺したという事蹟を聞いて、六代後の落魄したベルトランが、今度は花柳病者に同じ事をやろうとしたそうだ。それを、血系意識から起る帝王性妄想と、シャルコーが定義をつけているんだよ」と云って、眼で眼前のものを見よとばかりに、検事を促した。

写真は、自殺記事に插入されたものらしい算哲博士で、胸衣の一番下の釦を隠すほどに長い白髯を垂れ、魂の苦患が心の底で燃え燻っているかのような、憂鬱そうな顔付の老人であるが、検事の視線は、最初からもう一枚の外紙の方に奪われていた。それは、一八七二年六月四日発行の「マンチェスター郵報」紙で、日本医学生聖リューク療養所より追放さる――という標題の下に、ヨーク駐在員発の小記事にすぎなかった。が、内容には、思わず眼を瞠らしむるものがあった。

――ブラウンシュワイク普通医学校より受託の日本医学生降矢木鯉吉(算哲の前名)は、予てよりリチャード・バートン輩と交わりて注目を惹ける折柄、エクセター教区監督を誹謗し、目下狂否の論争中なる、法術士ロナルド・クインシイと懇ろにせしため、本日原籍校に