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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

医師はそっと眼をつむり、灰色の髪の薄くなった頭を左右に振った。

「いや」と医師は眼をあけて、煤だらけの天床を見あげながら云った、「人間も同じようなものだと云いたかったのさ、非行少年少女の指導には規準がない、両親の放任主義のためだとか、躾がきびしすぎたとか、環境のためだとか、社会が悪いからだとか、貧困のためだとか、金に不自由しなかったのがぐれたもとだとかね、――竹中くん、これらの条件を全部削除したらどうなると思うかね」

竹中啓吉は考えこんだ。

「そこにはもう人間らしい存在はない、人間はよき指導によってよくなるのでも、悪くなるのでもない、それは一人ひとりの欲望によるのだ、と私は思うんだがね」

「それじゃあ」と竹中は口ごもった、「――うっちゃっとけというのかね」

「きみは娘の親だ」

「たった二人っきりの親子さ」

「私は独身だ」と村田医師は云った、「かつては妻も子もあったが、いつか話したとおり、きみのような心配をするまえに、二人とも死んじまった、だから、――いま云った以上のことは、なにも助言をするわけにはいかないんだよ」

竹中啓吉が云った、「酒を飲むかね」

「神は人間に命を与え、それを奪いたもう」