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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

初めに飢があった

一

「へえー、そういうものかね」竹中は笑いをこらえながら、酒を啜って頭をさげた、「まいったよ、油屋の親方の云うとおりらしい、おれは宗旨ってえものがねえから、つまるところ村八分ってえわけだな」

「わかりゃあいいんだ、わかりゃあな」と親方はいいきげんで頷いた、「――神や仏を信じねえ人間なんてのは人間じゃあねえ、そんなやつはその、なんだあ、石っころや焼けぼっくいみてえに、てんからえてえの知れねえもんだ」

竹中啓吉が冷笑をうかべて、なにか云い反そうとしたとき、この家の女中がはいって来て、竹中になにか耳うちをした。

「おれの知ったこっちゃあね」と竹中啓吉は云った、「そんなことは駐在に云えばいいって云ってくれ」

そう云ってから彼は急に振り向き、女中に向かってきき返した、「ゆき倒れだって」そして竹中啓吉はよろめきながら立ちあがった。

初めに飢があった

一

「おかしいな、空腹だという感じが少しもなくなった」と松山隆二は呟いた、「腹がへっているような感じはまったくない、ただ眼がちょっとおかしなぐあいだ」

彼は立停って、かたく眼をつむり、ゆっくりと眼をひらいてまわりを眺めまわした。