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おみつかんざし

お美津簪

山本 周五郎

「キング増刊号」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,158 字 · 26 页

青空文庫

「そいつあ懐しい私も長崎だ」

「親方もか?」

正吉は眼を輝かして、

「それあ奇縁だあ、おらあ一ノ瀬の下だが、親方あどこだ」

「――そんな事を訊く必要は無かろう」

亭主の顔つきが不意に変って、野獣のような惨忍な表情が現われた。――正吉は眼を外らしながら黙った。

「呑んでくれ、これあ私の奢りだ」

別に一本、上酒の燗をして亭主が持ってきた。――そして語調を柔げて、

「どうも言葉尻に訛りがあると思ったんだ、何十年離れていても、故郷訛りは争えねえものだ、なあ若い衆。――だが」

「――――」

「おめえも見たところ堅気じゃあ無さそうだ。つまらねえ詮議は止めにして、気持よく呑んだら行って貰おうぜ」

「下らねえ事を訊いて悪かった」

正吉は素直に云った、「――同じ所と聞いたんでつい舌が滑ったんだ、気を悪くしねえでくれ」

「分りあいいのよ」

「御馳走になるぜ」

正吉は亭主の酒をあっさり呑んだ。――そして手早く勘定を済ませると、

「縁があったら又会おう」

と外へ出た。

居酒屋の亭主が長崎と聞いて、正吉は更に更に帰心を唆られたのである、そして、さっき鼬の辰次郎が来て話した「拵え博奕」の事を思いだしたのだった。