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かやのおいたち
かやの生立
岡本 かの子
「解放」1919(大正8)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,632 字 · 25 页
かやが、余念もなくそんなにして居る或日の午後であった。裏門の方から重い足音がして、一人の若者が吉蔵の傍へやって来た。吉蔵が其と見て、
「やあ」
と云って仕事の手を休めると、
「やあ」
と若者も同じ様に云って、吉蔵の傍へ停ち止まった。
「叔母御の処へ来なさったかね」
と吉蔵が聞くと、
「うむ」
と返事をしたきり若者はまだ立ち去りそうもない。
若者の年頃は、廿三四位に見えた。盲目縞の中古の筒袖の長着を着て、紺の兵児帯を前へ、きちんと結び挟んで居た。角の立つ様な隆鼻を中心にして、なかだかな、おとがいの張った男らしい顔の、怜悧相な額には、油もつけず幾日も梳らない為に、煤気を帯びた様な黒い、たっぷりした散髪が掩いかぶさって居る為に思いきって切れ長なま瞼の底に、濃情と憂愁とを交ぜ湛えた様な両眼の色がいやが上にも奥深く見えるのであった。
やがて、ぼろりぼろりと語り出した若者の声は、重くろしいなかに若々しい力のこもったひびきがあった。何かの拍子にうつむき加減に、にっと笑うと、真白な歯並が、神経質らしく少し乱れて見える。
其処へ、母屋の方から婆やが来た。婆やは若者を見ると、急に愛想笑いをつくって近寄った。