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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

それは荒れ朽ちた周囲のけしきの中で、いかにも際立って重おもしく、威圧的にみえた。

律之助はちょっと相模屋の前で足を停めた。店へ寄ってみたいようなようすだったが、また歩きだし、亀久橋のところまでいって、そこで遊んでいる子供たちに、蜆河岸を訊いた。

「そこだよ」と八つばかりの子が云った、「そこを曲ったとこの堀端をずっと蜆河岸っていうんだよ」

四つ五つから七八歳までの子が七人、ほかに十歳ばかりの、妙な男の子を取巻いて、どうやらみんなでいじめていたところらしい。いちばん大きなその子は、業病でも患っているように皮膚が赤くてらてらしてい、ぼさぼさの髪毛も眉毛も、乾いた朽葉色でごく薄かった。みなりのひどいことは他の子供たちと同様であるが、だらっと垂れた唇は涎だらけだし、紫色の歯齦と、欠けた前歯がまる見えであった。

律之助はぞっとしながらも眼をそらし、いま教えてくれた子に向って笑いかけた。

「有難うよ、坊や」と彼は云った、「おまえ年は幾つだ」

「おらか」とその子が云った、「おらあはたちだよ」

「幾つだって」

「はたちだよ、十九の次の二十歳さ」

他の子供たちがわっと笑った。