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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

というするどい女の声がした。低い傾いた家の軒下に、長屋のかみさんらしい女が(みな赤子を抱くか背負うかして)三人立っていた。

「返しな、伝次」と女の一人が叫んだ、「乞食じゃあるめえし、見ず知らずの他人から銭を貰うやつがあるか、返しな」

「みんなこっちい来う」とべつの女が叫んだ、「こっちい来て遊べ、みんな、倉造」

「返さねえか伝次」まえの女が喚いた、「返さねえとうぬ、手びしょうぶっ挫いてくれるぞ」

「そう怒らないでくれ」

律之助は女たちのほうへ近よっていった。

「いま道を教えてもらった礼にやったんだ」彼は穏やかに云った、「ほんの文銭が四五枚なんだから、――可愛い子だな」彼は女の抱いている赤子を覗いた、「丈夫そうによく肥えているじゃないか、もう誕生くらいかな」

女は「へえ」といった。それからまた「伝次」と棘のある声で喚いた。

「なに云ってやんだ、べえーだ」その子は向うで舌を出した、「これはおらが道を教えておらが貰った銭だ、返すもんか」

「うぬ、この畜生ぬかしたな」

「おっかあのくそばばあ」その子は云った、「おらこれで芋買って食うだ、勘兵衛の芋買って一人で食うだ、へーん」