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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
誰もなにも云わなかった。律之助が端のほうから、順々に顔を見てゆくと、みな眼を伏せたり顔をそむけたりした。
「よし、では私の想像が当っていたものとして続けよう」と彼は云った、「私は最近まで牢廻りを勤めていた、そして事件の内容は知らずにお絹を見て、こんな牢などに入るような娘ではないと思った、ちょっと信じられないかもしれないが、われわれのような役を勤めていると、ふしぎにそういう勘がはたらくんだ」
それから彼は口書を読んだこと、その内容がどうしても腑におちないので、吟味与力になったのを幸い、再吟味の決心をしたこと。そして、お絹自身も真実を語らないし、冬木町の長屋をまわっても、誰一人として助力してくれる者のないこと、などを諄々と述べた。
「頼む、頼むから力を貸してくれ」と律之助は云った、「卯之吉のほかに、誰かお絹につきまとっていた者がある筈だ、お絹が下手人だとなのって出たには、なのって出るだけの理由がある筈だ、ほんのひと言でいい、奉行所の面目にかけても、決して掛り合になるようなことはしない、どうか頼む、思い当ることがあったらひと言でいいから云ってくれ」
かれらはやはり黙っていた。