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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
三階へ駆け上って行くと青年達は自分の様子を見て驚いたらしく、どうしたか、どうしたかと詰め寄るのであった。自分の顔色が蒼白だというのである。自分は自分の部屋の窓に正体の知れないものがぶらさがっているのを見たからだとありのままを話して石垣や池田や東を連れてもう一度部屋のなかへ入って見た。部屋の電燈をともしてもう一度皆揃って見直すと何の事はない。そこにぶらさがっていたものは足駄の爪皮がゴムのところを釘にひっかけてあるのが夕風にゆれているだけの事であった。人々の笑うのはもとより自分も自分の臆病がわれながらおかしくもきまりが悪いので困った。しかし自分の見たものは最初障子に映っていた物影は勿論、障子を明けて見直した時にも、もっと大きなものに思えたのである。その晩自分は石垣にさんざ冷かされながらも彼の部屋へ寝させて貰って一夜を過した。この事があってから後は自分は全く怯えてしまってどうしても自分の部屋でひとりいる気がしなくなってしまった。じっとそこに落着いている間はまだそれほどでもないが、室の外にいて自分の部屋へ帰らなければならないと考える事のさびしさが我慢の出来ないものであった。