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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

正吉と松三はみえなかった。ゆうべ酒盛りのあとで遊びにでかけたのだろう。倉太と銀二もいない、と思ったが、すぐに、二人が焼け死んだことに気づき、胸を緊められるように感じながら眼をそらした。

「いま御飯の支度をしているんですけれど」

とおりつが云っていた、「朝御飯のあとじゃいけないでしょうか」

茂次は頷いて障子を閉めた。彼が着替えをしていると、おりつが来て夜具をたたみながら、井戸端に支度がしてあると云った。茂次は裏へ出ていった。まえには内井戸だったのが、家が焼けたのでいまは外になっている。井戸端も新しく、流しも新しい。彼は水の汲んである半を置き直し、房楊子を使いながら、ここが勝手の土間だったと思い、慌てて首を振り、眼をそむけた。

「おい」と茂次は自分に云った、「こんなことは二度と考えるなよ」

焼け跡の端に「福田屋」が見えた。植込の松の枝や、黒板塀の一部は焦げているが、二階造りの住居も、三棟の土蔵も元のままであった。よく残りゃあがった、茂次はそう思いながら、口の中でそっと呟いた。

「すぐに追いついてみせるぜ」

茂次の部屋には、仮の仏壇が作ってあり、晒し木綿で包んだ遺骨の壺が、その中に二つ安置してあった。