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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

と茂次が云った、「知っているうちはみんなやられちゃったな」

「一石橋の枡屋へいったか」

「土蔵まで焼け落ちてた」

「大野屋がやられ、新石町がやられた」と利吉が云った、「友達のところはみんな焼けてうちだけ残ったもんだから、なんだか悪いことでもしたようで、肩身がせまくっていけないよ」

そして、焼けた友人たちはみな立退いてしまい、残っているのはこの二人だけらしい。ほかの者はもう戻っては来ないようだ、と付け加えた。

茂次が訊いた、「おばさんたちはまだ目白のほうか」

「まわりがこのとおりで物騒だからね」

「うん」と茂次は頷き、ちょっと口ごもってから、「おめえに断わることがあって来たんだ」と云った、「おれはこれから、やり直さなくちゃあならない、それで、大留がすっかり立直るまで、いっさいのつきあいをやめるつもりだ」

「それはおかしいよ、こんなときにこそつきあいが役に立つんじゃあないのか」

「つきあいは対等でやりたいんだ」と茂次は云った、「いこじかもしれないが、性分だからしようがねえ、頼むよ」

利吉は口をつぐんだ。

「おやじやおふくろのことを云わずにいてくれて、――」と茂次が云った、「有難う」