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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
九
だがもしおりつが「いやらしい」という感じをもち、彼を拒絶する態度に出れば、菊二はみずから傷つき、場合によればやけにもなるかもしれない。むずかしいし、危ないところだ、と茂次は思った。
帰るときに茂次は、おゆうに向って駕籠でゆけとすすめた。しかしおゆうは笑って受けつけず、神田までいっしょに歩いて帰った。――その夜、普請場の一つが火事で焼けた。
九
焼けたのは日本橋吉川町の「魚万」で、殆んど普請が終りかかっていたのを、きれいに、焼けてしまったのである。これは「大留」にとって大きな痛手だった。料理茶屋だからというだけでなく、客筋とあるじ万兵衛の好みとで、木口はもちろん、すべてに高価な材料が使ってあった。それがすっかり灰になった。出来あがって引渡してからならべつだが、まだこっちの手をはなれていないから、損害は「大留」が負担しなければならない。屋根屋、左官、建具屋などにも、払うものは「大留」が払わなければならないのである。
そこの宰領をしていたのは藤造で、茂次たちといっしょに焼け跡を見廻りながら、「どうしよう」と、まるでのぼせあがったようになっていた。
「もらい火でよかった」